出血関連の検索でこのブログに入っていただく方が大変多いですので、
止血剤について言及させていただきます。
今回は、研修医の方や、医療関係者も想定して書かせていただきましたが、
一般の方(特にご自身や、家族、知人で出血されている方がおられる場合)
にもご参考になるのではないかと思います。
この世には止血剤と言われるものがいくつかありますが、本当に効く止血剤は限られています。
また、出血のタイプによって、有効な止血剤がまるで異なります。
1)濃厚血小板の輸注:
血小板の数が少ない時や、血小板の働き(機能)が極端に低下している時の出血に対して有効です。血液疾患など、この治療が必要となる疾患は入院が必要となる疾患のことが多いです。なお、濃厚血小板は繰り返し使用していますと、抗体ができて効果が減弱してきますので、本当に必要な時にのみ使用します。
2)新鮮凍結血漿の輸注:
止血のためには、血小板と凝固因子が必要であることは既に何回か書かせていただきましたが、新鮮凍結血漿には凝固因子が含まれています。
この治療が必要となるのは、重症の肝不全、血液疾患などやはり入院が必要となる疾患のことが多いです。
3)第VIII因子濃縮製剤(注射製剤):
血友病A(第VIII因子が先天性に欠損している病気)の特効薬です。以前にも書かせていただきましたが、血友病は関節内出血、筋肉内出血など深部出血が特徴的です。
4)第IX因子濃縮製剤(注射製剤):
血友病B(第IX因子が先天性に欠損している病気)の特効薬です。
5)DDAVP(抗利尿ホルモン)(注射製剤):
DDAVPは興味あることに、血管内皮からフォンヴィレブランド因子をたたき出す作用があります。そのため、フォンヴィレブランド病に対して有効です。ただし、重症のフォンヴィレブランド病には限界があります。また、繰り返し、DDAVPを使用していますと、たたき出されるフォンヴィレブランド因子が枯渇してきますので、効果が減弱してきます。なお、蛇足ながら、DDAVPが、フォンヴィレブランド病の治療薬であることは、昨年の国家試験に出題されています。
6)コンファクトF(第VIII因子濃縮製剤の一つ)(注射製剤):
第VIII因子濃縮製剤は最近は、遺伝子組み換えのものが主流になってきていますが、コンファクトFは昔ながらの血漿由来の第VIII因子濃縮製剤です。しかし、これが幸いしています。なぜなら、この血漿由来の第VIII因子濃縮製剤は純度が悪く、第VIII因子のみでなく、フォンヴィレブランド因子が混入しています。そのため、フォンヴィレブランド病に対して有効です。
7)遺伝子組換え活性型第VII(8でなく7です)因子製剤(注射製剤):
商品名は、ノボセブンです。
これは究極の止血剤です。血友病の患者さまで、濃縮製剤が効かなくなった時(インヒビターが出現した時)の代替え治療薬として用いられます。また後天性血友病にも適応があります。日本では、血友病インヒビターと後天性血友病に対してのみ保険が通っています。ただし、欧米では、脳出血、外傷時の出血などほとんど全てのタイプの出血に対して有効ではないかということで、臨床試験が行われています。とても期待されている止血剤です。
ただし、1アンプルが約30万円ととてつもなく高価なことと、現在は血友病インヒビターと後天性血友病にしか使用が認められていないのがネックです。しかし、ほとんど全てのタイプの出血に有効と考えられる究極の止血剤ですので、早く多くの出血に対しての使用が認可されて、価格も安くなってほしいと願っています。
8)ビタミンK製剤(内服も注射もあります):
ビタミンK欠乏症の時の出血に対して、劇的に効きます。表現を変えますと、ビタミンK欠乏症以外の出血に対しては、全く無効です。
9)アドナ(内服も注射もあります):
止血剤と言えば、このお薬をまずイメージすることが多いくらい有名なお薬ですが、効果はほとんど期待できません。副作用もまずありませんので、使用しても良いですが過度な期待は禁物です。
10)トラネキサム酸(商品名:トランサミン)(内服も注射もあります):
線溶活性化が強い時の出血に対しては、劇的に効果を発揮します。しかし、表現をかえれば、線溶活性化が強い時の出血でなければあまり効果を期待できません。アドナよりはまだ効果があるかも知れませんが。。。
なお、歯磨き粉にもしばしば含まれています。
トランサミンは、線溶活性化が極めて強いタイプの播種性血管内凝固症候群(DIC)に対して上手に使用しますと(ヘパリンと併用して)著効しますが、間違って使用しますと全身性の血栓症により死亡するという報告もあります。正に諸刃の剣的なお薬です。DICに対して使用する時は、必ず専門家に相談して使用すべきであると言われています。
医療関係者用に、トランサミンに関する大学病院のブログもリンクしておきたいと思います。
トランサミン(特集シリーズ)
11)局所治療:
たとえば鼻血の時、綿球にボスミン(血管を強力に収縮させます)を含ませて、鼻につめることで止血をこころみることがあります。
ただし、フォンヴィレブランド病による鼻血の時には、しばしば、DDAVPやコンファクトFが必要になります。もちろん、フォンヴィレブランド病の確定診断がなされていることが大前提です。
<止血剤のリンク集>
【止血剤:血が止まらない】出血、血小板、凝固、ノボセブン
【血尿、アドナ、トランサミン】止血剤
【播種性血管内凝固(DIC)】トラネキサム酸(トランサミン)の恐怖
【急性前骨髄球性白血病(APL)、ATRA】DIC、アネキシンII
血栓止血の臨床ー研修医のためにー
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